
滞英中に住んでいたアパートの向かいには
小さな八百屋さん、酒屋さん、クリーニング屋さん、
ブライアンの会社(住宅メーカー)、そしてパブが並ぶ。
私が渡英した1998年は幸運にも、サッカーワールドカップの年でした。
ある時、向かいのパブに大きな看板が出ているのを発見!
内容は『Bigscreen ! The world cup '98 ! 』
そう、大スクリーンでサッカーの試合を観られると言うのです。
日本の試合も観戦出来るかな?
日曜日の午後、主人と一緒に閑散としたパブに入り、まずはビールを注文。
恐る恐る「日本の試合は観れますか?」と聞くと、機嫌良く承諾してくれた。
試合開始後、日本チームに得点のチャンスが!
思わず声援に力が入り「行け行け!今!今!行け~!」
とだんだん私の声が大きくなる。
その時!" Come on Japan ! "という声が聞こえた。
- え?! -
驚いてカウンターの方を見ると、彼は微笑んでもう一度言った。
" カモン!ジャパン!
その後、日本勢は思わしくなく、たびたび大ピンチが襲ってくる。
「え~!」「あ~!アッあ~!」
再び私の声も大きくなる。だって負けるなんてありえないもの!
するとその時 " Ah~!" という奇妙な甲高い声が聞こえた。
- え?! -
声の主はさっきの彼だった。
でもその声って・・・。
彼を取り囲む輩たちが笑ってる。
やっぱり!私の真似をしているのだ。
思わず恥ずかしくなって、肩をすくめると
彼らは(今度はそろって!)もう一度言った。
" Ah~!"
私たちは一緒に笑った。
別れ際に彼は
" 次の木曜日はスコットランド戦だぜ!
カモン!スコットランド!
We will win ! "と言った。
かれらはスコットランド出身者だったのだ。
さて、次の木曜日。やっぱり行くでしょう?応援に!
「カモン!ジャパン!」と言ってくれたように私も
「カモン!スコットランド!」と言わねばね!
とは言うものの、一人でパブに行くのは不安だし
隣人ローナの言葉も頭をよぎる。
"Oh, my dear, オオ!ヒロコ!
あそこのパブには行かないほうがいいわ。
Don't go in there.
この辺りは治安のいい地域よ。でもあそこはダメ。
何人かはドラックをしてるって噂よ。
We don't think that place is good. "
いつもの私の悪いクセ。
何か行動する前は、必ず悪い方に考えてしまうのだ。
でも、ヨークシャーの風がそうさせたのか、
気付けばドアに鍵をかけ、ゆったり雲が流れる大空の下に立っていた。
そう!パブに行く為に。
それから3分後、私はパブにいた。
中は、すごい・・・すごい人ごみだった。
日曜日の午後とは全く雰囲気が違った。
入口から大スクリーンに近づくため
「すみませ~ん!」と言いながら大男たちの間を通してもらった。
カモン!ジャパン!の彼(名はコリン)を見つけ「Hi ! 」とごあいさつ。
彼らは " Ah~!" と、笑いながら例の甲高い声を上げ、
ようこそ!と仲間に入れてくれた。
もちろん合言葉は「カモン!スコットランド!」
ただ、試合が始まるまで時間はまだまだあった。
周りを見渡すと人・人・人・・・。
大男たちがどんどんやって来て、皆、立ったまま飲んでいる。話している。
「こんな人ごみの中に、ずっといられるかしら。」
少し心配になってきた。
すると、その時、一人の男性がこちらを見ていた。
彼は大きな声で "Hi ! " と言い、私にたずねた。
" What's your name ? "
何てステキな質問なの!私は大いに喜んだ。
だって、完璧に聞きとれたから!とってもカンタンだもの!
私は、ありったけの自信を持って答えた。
「マイ・ネイム・イズ・ヒロコ!」
すると、彼はとてもハッキリした声で
" My name is Brian. "と言い、サッと大きな手を差し出した。
私たちは握手をした。
それから、ブライアンと私は少し話した。
私のジャパニーズイングリッシュが通じているようには思えなかったけど
そんなことは、どうでもいい気がした。
彼は自己紹介をしているようで、パブの横の会社で働いているらしい。
「まだまだ試合には時間があるから。」と、私を会社の前まで連れて行ってくれた。
よく八百屋さんへ買い物に来た時に見ていた建物。
大きなショーウインドウにはステキなコテージの外観や
豪華な室内の写真が飾られてある。
" ここが、俺の会社さ!"と教えてくれたので
向かいを指差して
「わたしは、そこのアパートに住んでるのよ。」と言った。
" それなら、いつでも会社に遊びにおいで。
お茶ぐらいごちそうするよ。"
これがブライアンとの出会い。
それ以降は、ホントに会社にお邪魔したり、お茶したりした。
パブではいつも仲間に入れてくれ、ちょっと怪しい奴からは
大きな背中で守ってくれた。
彼とコリン(彼らは友達だった!)のお陰で
私は安全にパブ文化を楽しむことが出来たと思う。
帰国前、どうしても彼らにお礼をしたくて
彼らとその奥さんをアパートに招待し、日本料理でもてなした。
その時は、あの(!)ローナも招待したっけ。
彼女ったら上機嫌で最後まで楽しんでいたわ。
さてさて、そのブライアン。
早速事務所に行ってみると、受付のお姉さんが変わってる!
いつものキレイなお姉さんが座っていると思い込んで
バーンと勢いよくドアを開けたのだか・・・
ちょっと貫禄のあるおばさん二人が座っていて、唖然。
もちろん、向こうも唖然としている。
「え~と、私は日本から来まして・・・
その~、ブライアンさんの友達と申しますか何というか・・・」
しどろもどろになっていると、
後ろの部屋からブライアンが微笑みながら現れる!
「ブライアン!」" Hiroko ! "
懐かしいスコティッシュアクセントだ。
彼は一昨年、チャーリーと一緒に、私の個展に来てくれたので
まずはその時のお礼を言って、お土産を渡す。
もちろんチャーリーの分も。
すると彼、
" オー!ちょうどよかった。チャーリーにこの日曜日会うんだよ。
今年のバカンスはアメリカでハーレーに乗るのさ!
ハーハッハッハ!"
豪快に笑っている。相変わらず景気は良さそうだ。
ハーレーとは、そう、ハーレーダビッドソンのこと。
彼の大切な大切な宝物。
" これからどこに行くんだい? "
「ホーズに行くのよ。」
" ん?どこって? "
やっぱり通じない。これから行く北部の村の地名『HAWES』が通じない!
ジルにもローナにも通じなかったもの。
「だから、ホーズよ。ホオーズ!」と叫ぶと
しばらく考えて、" あ~。HAWES か!"
さすがブライアン!ご名答!
何故かブライアンとは気があって、
パブ仲間の中でも一番話をした方だと思うけど、
そのせいか、
彼は私のジャパニーズイングリッシュを理解してくれる有難い存在だった。
ある時なんて、ブライアンの友達が彼に
「なんでこの子(私です)の言うことが分かるんだ?」と真剣に聞いていたっけ。
その時はさすがにショックを受けたけど。
とにもかくにも、やっぱり頼りになるブライアン!
今でも、私の英語を分かってくれるのね。
彼のバカンスの予定を聞いたり、パブ連中の近況を聞いたり、
草花舎のことや絵の事を聞いてくれたり、話は尽きない・・・
けど、バイバイ!
だって、私たち『ホーズ』に行くから!
" ああ!『HAWES』な!"
しっかり言い直す彼。
う~ん・・・どう聞いても同じに聞こえるんだけどなぁ~。
ブライアンは、私たちが見えなくなるまで見送ってくれた。
北へ車で20分。
まずは、お気に入りの街 HARROGATE へ到着。
どう?美しい街でしょう?